大きな屋根とささやかな居場所
敷地は西傾斜で緩斜面の森の中にあり、西側の眺望が良く、敷地内外の木々を風景として楽しむことができる。都内で自動車関連の会社を営む施主は、友人が近くに移住したことをきっかけにこの土地を訪れ、一目惚れし、ここに親族や友人など大勢が集まれる広い家と、日々の疲れの癒しの場所を希望された。
まず、施主が必要とされた床面積を満足する長方形の二層ヴォリュームを鍵型に南西側と北東側に分割し、南西側を半階分下げることで、建物を威圧感のないヴォリュームで自然に馴染ませた。地面から少し浮いた高さに位置する南西側の空間は、森林の地表面近くの湿気から逃れつつ、視線の高さを西南に広がる木々の枝葉に合わせる。ここを大きな傘で覆って風景を水平に広く切り取れば、安心感があって臨場感たっぷりのリビングダイニングになると考えた。この屋根は3枚の勾配面による寄棟形式とし、隅木と棟は柱を用いず、寄棟中央に向かう斜材によって支持した。
駐車場と玄関がある地下1階から物見台のある屋上階までの6層のスキップフロアは、1階までを鉄筋コンクリート、1階から上を鉄骨で作った中央のロの字の階段が繋いでいる。地下1階の玄関から中地下1階のゲストルーム、1階のLDKと浴室、中2階の主寝室と子ども室、2階の書斎、屋上階の物見台まで、八つの場所を階段周りに螺旋状に配置したコンパクトな構成である。寝室の窓は小さく、浴室の開口はリビングと同様に目一杯大きくする代わりに浴室自体を本体からせり出した。多様な窓がスキップフロアと掛け合わさって、外との感覚的な距離感に変化をもたらし、それぞれの場所の居心地に物理的な距離以上の違いを生むと考えた。
1階のリビングダイニングの北東側に配した庇付きの屋外ダイニングスペースには、ベンチと庭へ続く階段を設けた。近くに住む友人家族がふらりと訪れお茶を愉しむ縁側のような場所だったり、庭と一体的に利用するバーベキュースペースだったりを想定している。階段の吹き抜けを背にした東向きの2階の書斎には、吹き抜け上部に設けた物見台への出入口を兼ねた西面の高窓からも光が注ぎ、明るくオープンなスペースとなっている。小学生になったばかりの娘さんと椅子を並べ、一緒に仕事や勉強に勤しんだり読書を楽しんだりする場所を想定し、長いデスクを設けた。ロの字階段の終着点である西向きの物見台からは、大木の向こう側の遠くの空に夕日を臨む。
無柱空間を覆う大屋根によって多面的に緑が臨める圧巻のリビングダイニングをつくりつつ、家のあちこちにささやかな居場所を散りばめた。昨今、施主も私たちも家で過ごす時間が長い。友人を招いて賑やかな食卓を囲むこともあれば、一人で仕事の合間に読書に耽ることもある。個人の自由で気ままなあらゆる活動が、ゆったりとした時間の流れと季節の移ろいが感じられる中で行われる家である。
(宍戸修二郎/SALA一級建築士事務所)
所在地/長野県諏訪郡原村
主要用途/週末住宅
設計
設計/SALA一級建築士事務所
構造/坂田涼太郎構造設計事務所 担当 坂田涼太郎 堀内拓磨
施工
株式会社カネトモ 担当 河角慎也
構造・構法
鉄筋コンクリート造+木造
規模
階数 地上2階地下1階
軒高6396mm 最高高さ8360mm
敷地面積 1318.88m2
建築面積 103.98m2(7.89% 許容20%)
延床面積 180.72m2(13.71% 許容40%)
工程
設計期間 2020年11月〜2021年12月
工事期間 2021年12月〜2023年3月
撮影/藤井浩司